天使は金の瞳で毒を盛る
彼は不思議そうな顔で私を見た。

しまった、なんでこんなこと口走ってしまったのだろう。

榛瑠は笑顔を浮かべた。

「大丈夫です。これも忍耐力鍛えてると思えば無駄ではないし。それよりニンジンのスープ、賄いにもでる?」

「もちろん」

「じゃあ、それを楽しみにちょっとやってきます」

そう言って彼は出て行った。

私はスープの鍋にむかうと最後の味見をして少し塩を足して火を止める。

このスープを彼が好きなのは知っている。最初に出したとき、とても喜んでくれた。

ある程度の量を作らないと美味しくないので、そう度々は作らないが、作るときはいつも榛瑠が頭に浮かぶ。

彼が喜んでいた顔を思い出す。

高校生相手に馬鹿らしいよね、と思う。口には出せない。この感情を名付けようとも思わない。

ただ、思うのは、誰かを思って作るほうが料理はきっと美味しくなるっていうこと。

愛情が一番の味付け、とかそういうことではなく。

誰かのため、とその人を思うと、ひとつひとつが丁寧になる気がするのだ。

切り方、下ごしらえ、盛り付けまで集中する。言い訳が減る。

そして何より、思う誰かがいるというのは幸せな気分で作れるのだ。

私は毎日たくさん作るし、食材を美味しくしようと思うし、そうすると食卓よりも目の前になる。

だからこそ。
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