天使は金の瞳で毒を盛る
「しょうがないなあ」

そう言いながら本を置き席から立とうとして動きを止めた。

そのまま椅子にもたれかかる。

かすかな少女の寝息の他、何の音もない。

少年は座ったまま、ただじっと身じろぎもせずに彼女を見ていた。薄暗い部屋を西日が横切っていく。

やがてちらっと壁の振り子時計に目をやると、音も立てずに立ち上がって眠っている少女の側に行った。

そこで彼女を見下ろして髪に触れようとして寸前で手を止める。

そして躊躇するように間をおいた後、ゆっくりと体を折った。

「……来年からはもう見てあげられないからね」

そう小さな声で呟くと、眠る少女の頬にそっと自分の唇で触れた。

それからまた自分が座っていた椅子まで戻ると、机に伏せてあった本を手に取る。それと同時に振り子時計が時を告げる音を鳴らした。

「……ん」

一花がゆっくりと体を起こす。

「目が覚めました?」

「………わたし、寝てた? 今、何時?」

寝ぼけたくぐもった声で一花が言いながら時計を見る。

「え、こんな時間?どうしよう、まだ残ってるのに!」

そう言って慌てて教科書をめくる。

「たいして寝てた訳じゃないですよ。まだ時間あります、落ち着いて」

榛瑠はそう言って、ページの進んでない本を何食わぬ顔で閉じた。

「だってえ。ああ、シャーペンどこ⁉︎」

「落ち着けって。ほら、深呼吸」

一花は肩を上げながら息を吸った。
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