天使は金の瞳で毒を盛る
「違う。先に息吐く」

言われた通りに息を吐く。その間に榛瑠は立ち上がると、部屋のあかりをつける。陰影を帯びた部屋が一気に平面的に明るくなった。

一花は深呼吸を繰り返したあと言った。

「ありがとう、少し落ち着いた。ね、次の問題も教えてくれる?」

榛瑠は身を乗り出し問題に目を通すと、ざっと解き方のヒントを教える。

「あ、なんとなくわかった気がする。ちょっと、待って」

そう言って一花は残っていた苺にデザートフォークを刺すと二つ続けて食べて、それから問題を解き出した。

解いている間にもまた一つ食べると榛瑠に言った。

「最後のいっこ榛瑠にあげる」

ひとつだけ苺の残った器を軽く押して言った。

「いいですよ、別に。お嬢様が食べれば」

「だって、もともとあなたのだし。苺好きだし。……ああ、なにこれ、もうちょっと待ってね」

そう、焦り気味の声でいうと、ノートに書いたものを消し出す。

榛瑠は差し出された苺を手で摘むと、先の方だけ半分かじった。

「一花」

名前を呼ばれて一花は顔を上げた。と同時に口元に甘酸っぱいものが入れられる。

「⁉︎ なに?」

「イチゴ、半分甘い方だけ頂きました」

「何それ? なんかひどいんだけど!」

榛瑠は笑うと言った。

「で、解けたの?」

「……まだです」

「ほんとに、なんでかな」

榛瑠はわざとらしくため息をつくと席を立って彼女の横に立つとノートをのぞき込んだ。
< 174 / 180 >

この作品をシェア

pagetop