天使は金の瞳で毒を盛る
「はい、出来たよ。たぶん、分かると思いますけど」

「ありがとう」

一花は受け取ると片付けながら言った。

「いつもごめんね。榛瑠だって自分の勉強あるのに」

「今更だからいいです。それより急げば?」

「あ、うん。そだね」

そう言いながらも妙にもたもたした動作をする一花に榛瑠は言った。

「……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。15歳の女の子にする軽いキスなんて、ただの挨拶です」

一花は筆記具をしまおうとして筆入れごと床に落とした。何本かのペンが床に散らばる。

「な、なに……⁉︎」

「それじゃないんですか? あの人に会うのがその時以来のはずだから緊張しているのかと思いましたが」

「そうだけど、そうじゃなくって……!」一花は椅子から降りてペンを拾いながら言う。「な、なんであなたがそんな事知ってるの⁉︎」

「見たからです」

「……」

「偶然です」

沈黙が流れた。一花は机の陰に隠れたまま顔を出さない。

「偶然、木陰にいたんです。私の方が先に。申し訳ありませんが」

「……なんでそんなことになるのよ」

一花の呻くようなつぶやきに、榛瑠は机に肘をつきながら小さくつぶやき返した。

「あいつが俺がいるってわかってやってるからだろ」

その声に重なるように一花の声がした。「あと一本ない」

榛瑠は足元のすぐ近くにペンが転がってきているのに気づいた。

それを取ろうと身を屈めると、机の下に一花が潜っているのが見えた。
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