天使は金の瞳で毒を盛る
「何やっているんですか……」

榛瑠は自分も机の下に入り込んで一花にペンを渡した。

「はい。これで全部ですか?……一花?」

一花は返事をせず机の下の暗がりでじっとしていた。やがて手元のペンを見ながらぼそっと言った。

「挨拶……そうだよね。そう……。私一人で意識してるのって、すごいカッコ悪いよね……」

榛瑠はそんな彼女から視線を外しながら言った。

「……別にいいんじゃないですか。それより、本当に時間なくなりますよ」

あっ、と言って一花は慌てて机からでると、ノートやら抱える。榛瑠は部屋の扉のノブに手をかけて待った。

「ねえ、この後、榛瑠はどうしてるの?」

「どうって。夕食とって自室に戻りますけど?」

「手伝いはしないの?」

「夕食会のですか?人手がなければ呼ばれるでしょうが、ゲスト一人だし無いと思います。どうかしましたか?」

「うん、あのね、この間ね、お父様に新しいドレスを買っていただいたの。それを今日、着ようと思って」

「それは良かったですね」

「うん。すっごく可愛いの。スミレ色のシフォンで。リボンが背中についてて」一花は榛瑠を見上げながら嬉しそうに言ったがすぐに下を向いた。「だから、その……。ほら、前は新しいドレス着ると色々言ってくれたじゃない? だから見て欲しいっていうか……」

「父親の見立てでしょう? 大丈夫なんじゃないですか」

「うん、まあそうなんだけど」一花は口ごもりながら続ける。「ほら、お父様は褒めることしかしないし」
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