天使は金の瞳で毒を盛る
魅惑の氷菓
フロアの照明は消えていて、非常灯だけになっている。でも、窓から入ってくる外からの明かりで意外に明るい。

デスクに頭をのせたまま、窓の外に目をやる。ビルの明かりや車のライトが煌々としている。

あの一つ一つに誰かがいるんだと思うと、今、自分がここに一人でいることの寂しさを愛しく感じる。

わたしもまた、あの明かりの一つだ。

目をつむってみる。真っ暗だ。当たり前だけど。なんか眠りそう。その前に帰ってくるといいなあ…

フロアの扉が開く音がした。スーツケースを引く音がする。頭を起こし目を開けると、廊下から入っ

てくるあかりに、長身の男性のシルエットが見えた。

「おかえりなさい」

「勅使川原さん?どうしたんですか、こんな時間まで。電気もつけずに。何かありました?」

「何にもないよ、そんなにいつも何かあったら困っちゃうよ」

私は立ち上がりながら榛瑠に言った。

あの後、課長が言った通り3日後に船が入船し、通関、無事に出荷に至った。期日より遅れた分は、鬼塚係長の営業努力と探し回った国内商品で乗り切ったらしい。

探す段においては美園さんが神業的な手腕を発揮したらしく、いま彼女は、資料室の妖怪と呼ばれるに至っている。

榛瑠は その仕事が終わったあと、ついでだからと中国の得意先を回って、今、こうして帰国したわけだった。

私はというと、いつものルーティンワークをこなしながら、横目でそういった様子を眺めていた。
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