天使は金の瞳で毒を盛る
何をどう言えばいいのだろう。えっと、その。

「もう大丈夫だと思った」

私はボソボソと言った。死ぬほど恥ずかしい。なにそれって自分に言いたい。

榛瑠の手が伸びてきて私の顔を包んだ。そして、私のおでこに自分の額をコツンとあてた。

な、なにやってんの、この人!う、動けないし!

自分の心臓がドキドキいってる。でも、大きな手が暖かくて安心する。こんなのでホッとするなんて、なんて子供なのだろう。

でも、いつだって榛瑠がいれば大丈夫だったんだもの。…そう、いれば。

「車で送りますよ」

榛瑠はふっと離れると言った。

「え、いいの?」

「こんな時間に一人で返せないでしょう、一本だけ電話入れますから、先に地下駐車場まで向かっていてください。」

「あ、ありがとう」

地下の車のところで待っていると、榛瑠が来て助手席のドアを開けてくれた。

そういえば、榛瑠の運転する車は初めてだ。彼も後部座席に荷物を入れて運転席に乗り込む。

エンジンをかけながら、左手でネクタイをゆるめると、カッターシャツのボタンを一つはずした。元は左利きだったな、って思い出す。

車はスムーズに夜の街を走り出す。乗り心地がいいなあ。普段はプロである家付きの運転手に運転してもらっているから、たまに他の人の車に乗るとヒヤヒヤするんだけど、それが全くない。

車内にジャズが低く流れている。

「ジャズなんて聞いたっけ」

「…なんでも聞きますよ。うるさいなら消します」

「あ、このままでいいよ」

私は消そうとする彼を慌てて遮ぎる。
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