天使は金の瞳で毒を盛る
そのまま榛瑠は黙って運転していた。

なんか、どこ見ていいかわからなくて、落ち着かない。とにかく前を見ていよう。

そう思って頑張って前を見ていたんだけど、それもなんか限界。

横をちらっとみる。すれ違う車のヘッドライトが順番に榛瑠の顔を照らしていく。

いつもと同じ淡々とした表情。いや、それでも、緩んだネクタイのせいか、少しだけ疲れて見える。

でも変わらない、綺麗な横顔だった。

ほのかに榛瑠の甘い匂いがする。

私は窓ガラスに頭を持たれかけさせ、目をつぶった。車の振動が伝わってくる。暗闇の中をジャズが流れる。

なんだろう、この、最高に居心地の悪い、居心地の良さは。

「疲れましたか?もうすぐつきますから。」

切なく震えるようなトランペットの音の向こうから、榛瑠のつぶやくような低い声が聞こえた。

「うん」

私は目をつぶったまま言った。

うん…でも、本当はもう少しこうしていたい。もう少しだけ。

もう少し、このままでいたい。

…え、あれ、ちょっと待って。

慌てて顔を起こして車外を見る。って、ちよっと。

「ここどこよ!どこ連れて行く気?」

私の家は会社からこんなに近くないわよ!

「こんな時間に屋敷まで送るなんて効率の悪いことをするのは嫌ですから。私のマンションまで行きます。お屋敷の方には連絡をしておいたので、安心して下さい。」

安心って、安心って…。だって、夜に二人きり、な訳でしょ?

「明日にはちゃんと送って行きますから大丈夫ですよ。」

榛瑠は平然と言った。だ、大丈夫って!…少なくとも今、私の心臓は大丈夫じゃないわよ!どうしてくれるのよ!

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