天使は金の瞳で毒を盛る
「では、今度はプリンを用意しますね。」

今度って、いつのこと言ってるんだろう。

榛瑠がおもむろに立ち上がる。私は反射的に手を止める。

「すみませんが、少し疲れているので、先にシャワーをいただきます。あなたはゆっくり食べていて下さい」

そう言ってリビングを出て行く。

足音が消えると、自然に深く息を吐いた。ああ、なんか緊張した。このマンション、広いみたいだから部屋を変えると気配が感じられなくなるのはありがたい。

でも、なんか、高そうなマンション。不動産とかよくわからないけどさあ。立地とかセキュリティとか良さそうだけども。うちの会社、給料はそれなりにいいはずではあるけど…。大丈夫なのかな?

まあ、いいんだけどね…。

最後に残ったコーヒーを口にする。本当においしい。私、今晩どこで寝るんだろう。いやまあ、そのね、いいんだけど。

榛瑠だし、何もないと思うけど。ていうか、何もって、なに、あたし!

「ああ、もう」

私は座ったまま上半身横になった。なんか、榛瑠が何考えているのかわからない。婚約のこともあれから口にしないし。そもそも、ずっとろくに話もしてなかった。

そう、だから、たぶん私は今日、待ってた。

心臓がさっきからずっとドキドキいっている。でも、ドキドキしてるけど、実は怖くはない。

彼は私を本気で傷つけることはしない。ずっと小さいときからそうだった。

榛瑠は両親を一度に無くした後、縁あって遠縁にあたるお父様に引き取られたと聞いている。

でも、本当に遠いみたいで、私は彼の血縁者のことをまったく知らない。ただ、父親が外国の人だってことは知ってるけど。

来たのは私が5歳、彼が8歳の時だった。養子としてではなく、彼はよく居候って言ってたけど、やはりその頃母をなくした私の、世話係、みたいなものだった。

その扱いを彼が心のうちでどう思っていたかはわからない。ただ、ずっとそばにいて、私を守ってくれた。決して傷つかないように、傷つけないように。

そう、ずっと。出会って十年後のあの日、私に後ろ姿を見せて行ってしまうまでは。
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