天使は金の瞳で毒を盛る
と、ガチャっと音がして榛瑠が言った。

「どうぞ、着きましたよ」

見ると、助手席側のドアが開いている。

「どうしたんです?帰るでしょう?着きましたよ?」

ええ、ああ、ありがとう、とかなんとか、私は口の中で言った気がする。恥ずかしさでいっぱいだった。だって、キスされるかと思ったんだもの。そう思ったことが、めちゃくちゃ恥ずかしかった。

そのままフラフラと車を降りようとしたら、右手に手が添えられた。えっと振り返る間も無く、彼は私の耳元にキスをした。

え?え?

気がつくと、私は降りていて、目の前で車のドアが閉められ、榛瑠はそのまま車を走らせ帰って行った。

私は朝の光の中、呆然と一人で佇んでいた。

…最悪。


「で、先輩。金曜日、いいですよね」

「え?」

篠山さんの明るい声でハッとする。

「やだなあ、聞いてませんでした?懇親会。金曜日ですからね。先輩も来れますよね?」

「懇親会?今頃?」

「いいんですよ、なんでも。とにかく課長を酔わせて聞き出さなくっちゃ」

「聞き出すって何を?」

「え?知らないんですか?四条課長、婚約者がいるって話」

…え?思わず眉が寄ってしまう。

「それも、噂によるとうちの会社のお嬢様ってはなしですよ。どうです?それって?」

ちょっ、ちょっとまってよ、何それ。

「いや、それ、出どころどこなの?」

「よくわかんないんですけどね。ここだけの話、」篠山さんの声が小さくなる。「妖怪女って話もあって」

美園さん?なんで?

「でも、それ、きっとデマだよ、うん」

そういうことにして欲しい。

「だから、聞き出すんです。それに、課長とお酒飲んでみたいじゃないですか、任してください。こういうセッティング得意なんです」

篠山さんは楽しそうに言う。私はますます頭が回らずグルグルした。

なんか、もう、あーよくわかんない!知らない!
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