天使は金の瞳で毒を盛る
驚き慌てて見た次の瞬間、大事に至ってないことを知る。

榛瑠が私の右手を持ち上げ、もう一方の手で倒れかけたコップを支えていてくれた。

「…気をつけて」

「す、すみません」

彼の冷静な声に反して私の声は明らかに動揺している。びっくりした。こぼさなくてよかったあ。

榛瑠が手を離す。と、袖をまくっていた彼の右腕の内側に、タレらしいのが飛んでいるのが目に入った。

「すいません!いま拭きますからっ」

あれ、私のお手拭きどれだっけ、テーブルの上ごちゃごちゃでわかんないよ。

慌てる私に榛瑠は相変わらず冷静に言った。

「大丈夫、平気ですよ」

そう言って自分の腕の内側をゆっくりともいえる動作で舐めた。

ドキッとした。

伏し目がちになっている。まつ毛が長い。舌にも綺麗とかってあ…

って私、何、見ているのよ!

ドキドキしながら慌てて目を逸らすと、固まって凝視している女性が何人もいるのが目に入った。

ああ、本当に、もう、榛瑠は分かっているのか、いないのか…。

深いため息をつく私の前を腕が横切った。

「お前、いい腕してるなあ、今、気づいたわ」鬼塚さんが榛瑠の腕をがっちり掴んで言った。「なにかやっているのか?」

「昔、空手を少し。鬼塚さんはさすがの握力ですね」

悪い、悪い、と、鬼塚さんは手を離した。榛瑠がまくっていた袖を直している。

榛瑠は子供の時から、空手だけでなく色々やっていた。でもスポーツとしてではなく、私を守る護衛として身につけさせらていた感じだった。

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