天使は金の瞳で毒を盛る
榛瑠はそういうのがとても多い。

お菓子作りでも、お酌でも、空手でも。私のために身につけ、私にだけすることが。

そうだよね、そう思うと、家から出て行こうと思うよね。私から離れてせいせいするよね。

なんだか食欲も無くなって狭い座席の後ろの壁に寄りかかった。

鬼塚さんと榛瑠の背中の影になる。なぜか妙に安心した。…まるで、木の陰にいるみたい…

「げ、こいつ寝てないか?」

ぼんやりした意識の向こうに鬼塚係長の声がする。

「…寝かせておきましょう。今週、元気ないようでしたし、疲れているのかもしれませんね」

「しょうがないなあ」

なにかがバサッと顔半分から上半身にかけられた。…鬼塚さんの上着?ありがとうございます…

それから覚えているのは何かが頬に優しく触れたこと。そして安心した気持ちになったこと…。






「おい、帰るぞ、おきろ」

寒っ。体にかかっていたものが取り除かれビクッとする。あれ、今ってなにしてたっけ?

「いい加減、離してやれ。お前んとこの課長困ってるぞ。」

鬼塚さんだ。離すって何を…

ぼんやりと目を開ける。横向きに寝ていた私の目に榛瑠が目に入る。

相変わらず冷静な顔をして片足立てて座っている。足が長いせいか窮屈そうに見える。その膝の上に右手が置かれている。左手は…

私の目の前に、あった。で、がっちり、私が両手で握っていた。

その事実が脳みそまでたどり着くと、私は声にならない悲鳴をあげて飛び起きて、後ずさった。

「す、すみません!ごめんなさい」

いいですよ、と、なんでもないかのように四条課長は言って立ちあがった。

そう、実際、榛瑠にはなんでもないだろう。

でも、私にはある!うわぁ。絶対、私、顔赤いよ、今!
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