天使は金の瞳で毒を盛る
昨夜遅く榛瑠はわざわざ家まで電話してきたのだ。

「そうですけど。家についているからって必ず無事とはかぎりませんし」

この人、なんの心配してるのかしら。

「心配しすぎだよ。だいたい、榛瑠が鬼塚さんに私のこと送れって頼んだんじゃない。鬼塚さん気を使って、わざわざ遠回りまでしてくれたのに!榛瑠は遊びに行っちゃったくせに!」

そうよ、榛瑠が去り際、酔っていて心配だからよろしくとかなんとか言うから!…って、私、駄々っ子みたいなこと言ってないよね?

「そうですね。…すみませんでした。ちゃんと私がお送りしたかったのですが、サトはあなたのことを薄々感づいていたようだったので、引き離すのを優先しました。すみません」

「え、そうなの?彼、じゃなくて、彼女、昔の知り合い?」

榛瑠は頷くと、また、画面を見る。深入りした話をしたがってないのが丸わかりなんだけど。

でも、私のせいだったのか。ごめんなさい。

また、会話がなくなる。

手持ち無沙汰なせいもあって、なんとなく榛瑠が何をしているのか知りたくなった。

立ち上がると彼の左肩後方からそっと覗き込む。画面がなんなのか全然わからない。だって、全部英語なんだもの。

榛瑠は気にしたそぶりもなく英文を読み続けている。

そうなんだよね、と思う。

実は大概、榛瑠のやっていることなんてわからない。今もだけど子供の時の三歳差は大きくて、側にいるくせに分からなかった。彼が高等部で生徒会長だった時なんて、私は中等部で、友達と一緒にその活躍を噂で聞くという感じで。

そのくせ家に帰ると、手作りお菓子を作って待っていてくれたりするものだから、なんだか嬉しくて切なくていっぱいワガママ言った気がする。

だからかなあ…。

って、やめよう。彼がいなくなった理由を探すのは。
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