天使は金の瞳で毒を盛る
私はとりあえず気分転換に庭に出た。

まだドキドキしている。唇の端に指の感触が残っている。

ああもう!これだからイヤなのよ。

昔っから彼はあんなふうで…。きっと榛瑠の中では私は最初にあった五歳児のままなんだわ。

広い庭に秋の風が優しく吹いて芝生を優しく揺らしていた。

その向こうに木々が生いしげり雑木林のようになっている。

子供の頃よくそこで榛瑠と遊んだっけ。樹の下でかくれんぼしたりおやつ持ち込んだり。

誰にも邪魔されず日が暮れるまで二人で過ごしていた。…あの頃は二人でいると榛瑠もよく笑っていた気がする。

「ここは変わりませんね」

後ろから柔らかな声が聞こえた。振り返りたくなったけど、がまん、がまん。

横に人が立つのを感じる。何かいい香りがふわっとした。

なんだろう、花じゃないし。甘くて優しい、でもゾクッとするような…

そして、気づく。榛瑠の匂いだ。

体の奥で何かがドクっといった。目を閉じる。ああもう、本当に勘弁してほしい。

「…ねえ、何で戻ってきたの?」

私は前を向いたまま言った。高校出てすぐ渡米してそのまま今まで一度も帰って来なかったくせに。

「社長に呼ばれました。本社に来ないかと」

そう、榛瑠はアメリカ支社にいたのだ。それはお父様に聞いて知っている。そこで成果を上げていたことも。

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