天使は金の瞳で毒を盛る
言い返そうとした時、別の聞き慣れた声がした。

「四条、ここにいたのか。なんだ、一花何やってるんだ?」

「鬼塚さん…」

私は急な係長の登場に気持ちをお嬢様から戻しきれなくて内心慌てた。

でも、榛瑠は少しも慌てず言った。

「いえ、昨日少し調子を崩したことを口にしたら心配してくれたみたいで。大丈夫なんですけど」

「へ、なに、熱でも出した?」

「まあ、でも大したことありません」

だから、見てる方は心配したんだってば!なんでわかんないのかしら。

「なら、平気だな。仕事してれば治るわ」

鬼塚さんが興味なさそうに言う。本当に、この人たちは!ものすごく同類!

「あの、お言葉ですが、体調と気力は別問題だと思います。」

「なんだ、急にどうした一花」

私の勢いに鬼塚さんが面食らったように言う。でも、言わせていただきます!

「お二人とも脳みその欲求にばかり目を向けすぎです」

「なんだそれ」

「ああしたいとか、こうしたいとか、売り上げあげたいとか、タスクを完了したいとか、競争を勝ち抜きたいとか、お金儲けたいとか、女を手に入れたいとか、えっと、もう、そんなんばっかり!」

「四条、女欲しいの?」

鬼塚さんが榛瑠に言う。

「どうでしょう」

「とにかくそんなんばっか。もっと体の欲求にも耳を傾けるべきです」

「は?」

鬼塚さんが呆れた顔をする。いいもん。こういうことで怒らないこと、わかってるもの。そこ、付け込ませていただきます。

「ちゃんと、体の声も聞くべきです。疲れたとか、休みたいとか聞いてください。だいたい、上司なんて、休むのも仕事のうちですから!うちの会社をブラック化しないでくださいね」

私は言いたいこというと、お時間取らせました、と一礼してその場を離れた。
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