天使は金の瞳で毒を盛る
悔しいけど本当なんだよね。大学の時誘われて行ったけど、全然ノリについていけなくてやめてしまった。

それに、根本的なところで、そこで素敵な人に出会っても逆に困るのだ。恋にでも落ちたところで、その先の展望が思い描けないんだもの。

私の相手は必然的にうちの会社を継ぐ必要が出るんだから。そうそう、ただ好きと言うわけにはいかない。

…そう思うと、私って、本当に恋愛に縁遠いんだよね。あーあ。

「おはようございます。楽しそうなのは結構ですが、入り口塞いでますよ?」

私たちの後ろから声がした。榛瑠が入ってきたところだった。

ごめんなさい、と二人が言う。篠山さんなんて露骨に嬉しそうだ。私は恋なんてものの事を考えていたせいか、妙に焦ってしまった。

「おはようございます、すみません」

そう言って退こうとして、自分で自分の片方の靴を踏んでしまって、あっと思った時には靴が片方脱げて飛んでいってしまっていた。

「す、すみません」

「何をやってるんですか…」

榛瑠はそう言って靴を取ってくれる。

「わ、課長いいですから、すみません」

焦る。会社にいるときは基本的に上司と部下だし、自然とそういう気持ちになっているから、本当に焦る。

こんなことしないでください!靴とばした私が悪いんだけど。

「はい、どうぞ」

そう言って四条課長は屈んで靴を差し出した。

そしてそのまま靴を置くと思ったら、跪いて差し出した。

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