天使は金の瞳で毒を盛る
「じゃあ、ありがとうございました。」

そう言って私は頭を下げると、彼に背を向けた。と、後ろから呼び止められる。

「勅使川原さん」

「?」

私は振り返った。尾崎さんは同じ場所で傘をさしたまま立っている。

「一花さん。あの、俺と付き合ってくれませんか?」

…え?なに?なんて?

「いきなりに聞こえるかも知れないけど、俺はずっと考えていて。だから、急なノリで言っているわけではないんだ。…ひくかもしれないけど、本気です」

言われた言葉の内容がやっと飲み込めて、…思考が停止する。

え、え、…、だって、考えたことも想像したこともない…。え?

次の瞬間、じわじわとしたうれしさと、ものすごい罪悪感が襲ってきた。

こんなふうに、誰かに好きって言ってもらえたことない。すごく嬉しいことなんだ。それなのに、この人に嘘ついてる。

黙っている私に、彼は言った。

「急で困るよね。ゆっくり考えてくれればいいから」

そう言って去ろうとする尾崎さんに私は「待って」と声をかけた。

せめて、逃げないでちゃんと言おう。

「ごめんなさい。」

私は頭を下げた。

「…今?」

「すみません。ごめんなさい。」

尾崎さんはしばらく黙っていた。それから、「そうか」と小さく呟くと言った。

「うん、わかった。気にしないでいいから。…中に入りなよ、風邪引く前に」

私は一度頭をあげて、もう一度頭を下げると、踵を返した。
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