天使は金の瞳で毒を盛る
見ると、尾崎さんはそこにずっと立っている。

私は部屋番号を押す。程なく声がした。

「はい」

榛瑠の声だ。泣きそうだ。

「私です。ここだけでいいので、開けてくれますか」

「…上がってきてください」

ドアが開く。まだ、彼はいた。私はそれ以上見ずに、榛瑠の部屋の階までエレベーターで上がると、とりあえず、部屋の前まで行く。

そこで立ち止まった。このまま会わずに帰りたい。今、会いたくない。

帰ろう。あとで謝ろう。

そう思った時、玄関のドアが開いた。

榛瑠が出てきた。白いTシャツを着て洗いざらしの髪のままだった。

なんとなく俯いてしまう。

「お嬢様?どうしたんです?入ってください。」

「ごめん、ちょっと事情があってここに寄らせて貰ったの。もう帰るから。…また、今度説明するから。」

「…どうぞ中へ」

榛瑠の声は有無を言わせないものだった。私は俯いたまま部屋に上がる。

榛瑠は私をソファに座らせると、自分はキッチンに消えた。黙って座っていると、程なく温かいお茶が出てきた。

カモミールかなこの香り。いい匂い。

でも、癒されることが後ろめたい。そう思う自分を傲慢だと思う。
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