天使は金の瞳で毒を盛る
「ありえません。会社の近くのマンションに住むつもりです」

榛瑠の言葉にホッとする。家にいられたらたまらないもの。

「だいたい、会社から2時間もかかるこんな不便な場所から通えるのは、車で送迎してもらえるお嬢様ぐらいです。」

言葉に棘を感じて私は押し黙った。

そうなのだ。遠い上に公共交通機関が近くになくて、会社から途中まで電車で、そこからは運転手に送迎してもらっている。

でも、仕方ないじゃ無い。お父様が一人暮らし認めてくださらなかったんだし。

「まあ、仕事も定時に上がって、そのあと一緒に過ごす相手もいないのなら、むしろちょうどいい時間つぶしかもしれませんが」

どうせ、大した仕事もしてないし、恋人もいないわよ!

「あなたみたいな人はせいぜい仕事いっぱいして残業でもすればいいのよ。そして、そういう人がブラック企業を作り上げるんだわ。経営者としては問題ね、向いてないんじゃないの。」

私は精一杯イヤミをいった。

榛瑠は無表情のまま黙って私を見た。

「な、なによ」

「いや、難しい単語も知っているなと感心したんです。エライ、エライ」

今、この人、めちゃくちゃバカにしたよね?そうだよね?悔しいんだけど!

いや待って、ここで怒ったら思うツボだわ。冷静にならないと。

「とにかく、私は会社ではお父様の娘って隠しているし、アメリカ帰りのエリートと、いち事務職員なんて接点ないですから。その辺は心得て頂いて、関わらないでいただけますか?」

「……了解しました。あなたがそう望むのなら、初対面として振舞いましょう」

初対面もなにも、目の前に現れないでほしいのだけど。
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