天使は金の瞳で毒を盛る
榛瑠は飲み物片手に黙って窓際に立って、こちらを見ている。それから、外を見て言った。

「で、あなたのそのひどい顔は外に立っているあの傘のせいですか?」

私は驚いて顔を上げる。まだ、いる?え?榛瑠がなんで?

「うそ…」

「うそです。ここからでは何も見えませんよ」

「ひどい…」

ひどいって、言葉が酷いよ、一花。そう思って、でも、涙が出てきた。今はやめてほしい。いじられるのに耐えられそうにない。

私がどんな顔をしていたか知れないが、榛瑠は軽くため息をついた。

「人の忠告を聞かないから。ほどほどにしなさいって言ったでしょう」

「べつに、何もしてないもん!」

吐き出した言葉は思ったより大きい声で自分で驚く。でも、本当?何もしなかった?

「何もしないのも、した内ですよ。」

「榛瑠は何も知らないんだから黙って」

「まあ、そうですね。でも、あなた単純だから。なんなら当てましょうか?」

「…」

「まず、男に飲み会の後送ってもらう。自分のことを隠すためにここの住所をいう。で、着いたところで思いもよらぬ告白を受ける。で、後ろめたさに泣く。以上。」

…すごく嫌い。

「…言われるのが嫌なら泣き止みなさい。」

言われて、自分が泣き続けているのに気づいた。体がリアルに痛い。心はちゃんと痛みを持ってくる。

「それって傲慢ですよ、お嬢様?」

わかってる。

「あなたが泣いたってどこにも届きません。それは、自分のための涙です。」

わかってる。でも、止まらない。…ごめんなさい。私、嫌な人間だ。

「…しょうがないなあ」

そう言って榛瑠は私に近づくと、横に座って私の頭を抱きかかえた。

< 70 / 180 >

この作品をシェア

pagetop