天使は金の瞳で毒を盛る
「やだ」

私は逃れようとした。慰めてほしいわけじゃないの。でも、ビクともしない。

「一花、他人の痛みまで抱えるのはやめなさい。あなたは舘野内家の後継だ。今の状況は一時的なものです。本来の立場に戻ったときに、その脆さはあなたが背負うべきものを危うくします」

榛瑠の言葉は氷のように冷たく胸に落ちて、ゆっくりと溶けていく。

寒い。

榛瑠がぎゅっと抱きしめてくれる。

「まあ、無理なのは承知で言ってますけどね。」

また涙が出てくる。

「いい加減に泣きやみなさい。私はあなたが傷ついているのを見るのは好きじゃないんだ。」

「どっちかっていうと、榛瑠のせいだよ」

「それならいいですけど」

「いいんだ?」

「まだマシです。何で私があなたが他の男に泣かされるのを見てないといけないんですか。イライラする。」

私は笑ってしまった。手の甲で涙を拭く。榛瑠が私の顔を見て言う。

「…ブサイクな顔してますよ」

「…酷い。泣き顔はかわいいって言うものじゃないの。」

「そういうのはいい女に言うことです。あなたには早い。」

いちいち酷い。この人こそ、私を慰めたいのか、泣かせたいのかどっちよ。

「…だから笑ってなさい、お嬢様。その方がずっといい」

そう言って榛瑠は私の目元にそっとキスをして、また抱きしめる。結局、慰められてしまう。

「甘やかされてなさい。あなたはそれが許されているのだから」

うん。温かい。でもこの甘さに代償はないのかしら。あるとしたらなんだろう。

地獄にでも落ちるのかな。そしたら榛瑠にそっくりな悪魔がいたらいいな。

ぼんやりする意識の中でそんなことを思っていた。
< 71 / 180 >

この作品をシェア

pagetop