天使は金の瞳で毒を盛る
週明け、会社で尾崎さんに会ったらどんな顔をすればいいのかとドキドキしていたが、一度すれ違って挨拶しただけだった。

その時も、お疲れ様です、って、それだけ。

ほっとしたような、何だか落ち着かないような。そもそも全部自分の勘違いだったのでは、って気さえした。

榛瑠の方も特になにも言ってこず、鍵は私が持ったままだ。

自分の家の鍵なんて彼女に渡すものだと思う。これが他の人ならかなりドキドキするところなんだろうけど、彼と私の場合、ちょっと関係性が微妙だしなあ。

そんなある日の昼休み、外で佐藤さんに声をかけられた。

「あのさ、へんな事言うようだけど、尾崎のことでなんかあったりしてない?」

え?なに?佐藤さん知ってて言ってるの?

「あの…」

「あ、何にもないならいいんだよ。ただ…」

「ただ、なんですか?」

「…俺から言っていいかわからないんだけど、あいつ、君のことが気に入ったんじゃないかと思うんだ。尾崎ってさ、一途っていうか思い込みが激しいところがあるからさ、気になって。俺が引き合わせたみたいになってるし。その、勅使川原さんって、その、押しに弱そうに見えるから…」

佐藤さんの遠慮がちな言い方が可愛らしく思えて、そしてありがたくて、ふふっと笑ってしまった。

「ありがとうございます。大丈夫です。」

「それならよかった。なにかあったら言ってね?」

はい、と答えながら佐藤さんっていい人だなあと思う。こんな人が彼氏だったら幸せになれそうだなあ。

「佐藤さんって彼女いるんですか?」
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