天使は金の瞳で毒を盛る
「上むいてると、転びますよ」

後ろから、声がした。聞き慣れた、低い声。

振り向くと、榛瑠が立っていた。あと、鬼塚さんも。

「どうしたんです?顔赤いですよ」

「なんでもないです。そちらこそ、二人でお昼ですか」

「たまたまな。四条が女史の誘い断ろうとしているところに出くわしてさ、しょうがないから助け舟で俺と打ち合わせがあるってことにしてやったの。」

女史って、あの、早川さん?

「バカだろ、こいつ、早川女史だぜ?」

「…そうですね。もったいないかも」

とりあえず、言ってみる。客観的にはかなりもったいない。でも、嬉しい。あ、やだ、顔がにやけちゃう。

「打ち合わせることも今日はないし、必要ないでしょう。昼まで付き合わされたらたまりません」

鬼塚さんが榛瑠の言葉を聞いて笑って言った。

「とにかく、お前のおごりな、肉ね、肉。」

「あ、あたし、美味しいトンカツ屋さん知ってます!教えてもらいました。」

「…じゃあ、案内してもらおうかな」

「課長の奢りでいいですか?」

「早川から一花かよ、だいぶランクダウンじゃね?」

うるさい、鬼塚。

「別にそんなことないですよ。…さ、行きましょうか、時間がもったいないですし」

はいっ、と答えて歩き出す。

なんだろう、すごく嬉しい。佐藤さんとあんな会話した後だから余計なのかな。嬉しくて、足取りも軽くなる。

私は、前に篠山さんと行ったお店に連れて行った。二人とも入ったことないらしくて案内した甲斐ありって感じ。

トンカツはやっぱり美味しかった。鬼塚さんは当然よく食べてたし、榛瑠も気に入ったようだった。

そのうち、トンカツ作ってくれるかも、って、目の前に座る金色の人を見ながら思った。
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