天使は金の瞳で毒を盛る
今ここに、榛瑠に登場されるのはメチャクチャまずいよ。いやいや、ダメ。

「本当に平気。タクシー使うよ。じゃ、切るね」

まだ何か言いたそうなのを無視して回線を切る。怒ってるだろうなあ、ま、しょうがない、とにかく本当に帰ろう。

これ以上いたら、いらないことを喋る羽目になりそうだ。

席に戻ると、私の席に新しくドリンクが置かれていた。

「あ、戻って来た」

葛城さんが明るく言う。

「ごめんなさい、あの、私そろそろ」

「あ、私は先に失礼するわね。」

「え、私ももう…。」

「彼が少し話したいんですって。これ、よければ飲んで付き合ってあげてよ。あ、ソフトドリンクだから」

どうしよう、オロオロしているうちに葛城さんが席を立つ。

「今日は、ごめんなさいね。ちょっと、あなたのことが羨ましかったの。でも、それも今日で終わり。じゃあね」

そう言って、店から出て行った。なんだろう、展開についていけない。

私はしょうがなく席に座る。これだけ飲んだら、さっさと帰ろう。

「ごめんね、迷惑だった?」

「え、大丈夫、ですけど、えっと…」

尾崎さんをまっすぐ見れない。ブラッドオレンジ色のドリンクをごくごく飲む。苦甘い。

「ごめんね、俺、実は諦め悪いんだ。君が付き合っている男がいるなら諦めようって思ってたんだけど、葛城さんの話だと違うみたいだし」

「まあ、たしかにいないですけど…」

「うん」

いや、でも、そういうことではなく。

「あの、ごめんなさい。本当にお付き合いしている人はいないですけど、尾崎さんともお付き合いは出来ません」

「そんなに難しく考えなくてもいいのに」

「えっと、私、こういうこと慣れてないし、軽くは考えられないし…、その、好きな人もいるので」
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