天使は金の瞳で毒を盛る
令嬢の憂鬱
着替えてリビングに行くと、榛瑠がハーブティをいれてくれた。

温かいそれをゆっくりと飲む。少し、心が落ち着く。

落ち着くと、色々考えることも出てくる。

「なんでこんなことになったのかなあ」

私の呟きが聞こえたはずなのに、榛瑠は本を片手にソファに座ったまま何も言わない。

彼、…尾崎さんは何を思っていたのだろう。本人に聞きたいとは思わない。でも、どこが違ってしまったのか。と、あることを思い出す。

「あ、彼、このマンションに榛瑠が住んでること知ってたよ!私も住んでると思ってたけど」

「まあ、別に私自身のことは隠してないので」

榛瑠が答えた。言われてみればそうよね。

「でも、私はもう、ここに来ない方がいいのかなあ」

「お好きに」

本から目を離しもせず言う。わかってるけど、寂しくなる。

言葉が続かなくてそのまま黙ってしまった。窓を閉め切ったままの高層階の部屋は外の音があまり届かなくて、ひどく静かな気がした。光ばかりが眩しい。

…ああ、そういえば、肝心なこと忘れてた。

「あの、榛瑠?」

「はい」

「助けに来てくれてどうもありがとう」

まず、言わなくちゃいけなかった。

「…仕事の一環みたいなものなので、それ自体はお気になさらず」

「そっか」

そっか、仕事か、そうだよね。…わかっているのにね、なんでいちいち私の胸は痛むのだろう。

パタン、と本を閉じる音がした。

「とはいえ、今現在あなたの面倒を見ても私はなんの報酬もないんですが。以前と違って」

「え、前はなんかあったの?」

「衣食住の面倒を見てもらってましたから」

「ああ…」

そんなこと…、そんなふうに思っていたのか。
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