天使は金の瞳で毒を盛る
何かが唇に触れた。私は速攻離れた。心臓がバクバクいっている。

そのまま榛瑠の側から逃げようと思ったのに、そうする前に腕を掴まれた。

「あのねえ、なにぶつかっているんです?」

「ぶつかってって…」

榛瑠がじっと私を見上げる。だって、だって、…、いや、私なりに、その…

「はい、ぶつかりました。すみません」

さすがに私もそう思うわよ。キスじゃなくてほぼぶつかっただけ!もう、泣けてくる…。

榛瑠がわざとらしくため息をついた。

「まったくね、キスの仕方からお教えしないといけないとは…」

「いらぬお世話。だいたい、あなたにそんなこと教えていただかなくても…」

「本当、なかなかに、」

私を見上げる榛瑠の瞳が妖しく揺れた、と思った。

「…楽しい」

え?

そう思った時には腕を引き寄せられていた。

え?

気づいたら榛瑠の唇を自分のそれに感じていた。

え?なに?

いつのまにか彼の片腕が腰を支えていて、もう片手で頭を支えられていた。逃げられない。唇が押し広げられて舌が入ってくる。

なに、これ。なに…。

立っていられなくて膝を折った。彼の方が、覆い被さるような姿勢になる。

ヤダ、と思うのに体がうまく動かない。背筋がそり返るのを榛瑠の腕が支えている。

「んっ…」

やだ、離れないで…。

「一花、頭をテーブルにぶつける。ちゃんと体支えて」

ぼんやりした視界の向こうで榛瑠が私を支えながら言った。そう言いながら、彼はソファの前のローテーブルを足で蹴飛ばしてずらした。

その音で意識がクリアになる。そして、そのままテーブルと彼の隙間にへたり込んでしまった。
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