突然現れた御曹司は婚約者
突然現れた御曹司は婚約者

出会い

ランチで入った行きつけの喫茶店。

そこの大きな窓から見える街路樹の葉は、五月の陽射しをたくさん浴びて活き活きと光り輝いている。


「目には青葉、山ほととぎす、初鰹」


この時期にぴったりの有名な句がほろりと口からこぼれ落ちた。


「目に鰹…ってなに言ってるの?大丈夫?」


向かいに座ってグレープフルーツジュースを飲んでいる同期入社のクールビューティーこと古泉寧々(こいずみねね)はこの句を知らないらしい。


「鰹が食いたいならはじめからそう言えよ」


隣の席で大盛りのカツカレーを頬張るもうひとりの同期、牧田晴(まきたはる)もまた同じ。

有名な俳句も、知らない彼らの前では情緒にも風情にもならない。

雲ひとつない真っ青な空を見上げて、今は亡き、俳人に想いを馳せる。

が、寧々はそんな私を病人扱いしてきた。


「栞。さっきからぼーっと外を眺めてるけど、なにか悩みごとでもあるの?それとも五月病?」
「五月病?」


あまりに突飛でおうむ返ししてしまった。

それを牧田くんは、私が分からないと言っているように聞こえたらしく、机の上に置いてあったスマートフォンを操作し、画面を見せてきた。


【五月病とは、新人社員や大学の新入生や社会人などに見られる、新しい環境に適応できないことに起因する精神的な症状の総称である。(ウィキペディアより)】

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