突然現れた御曹司は婚約者
「『株式会社レンは東堂家の息子が家の資産を運用し、インターネットビジネス関連の事業を展開した会社で、設立からわずか二年で株式を上場。その事業手腕たるや歴代当主の中でも抜きん出ており、"30歳にして資産を倍にした、資産運用のプロだ"』」
文章を読み上げた牧田くんは次に顔写真を画面に出し、目の前の人物と見比べた。
それで納得したらしく、スマートフォンを片付けた。
「でも面識のない栞がどうして嫁ってことになるんだよ?その容姿とステータスがあれば女には困ってないだろ?お家柄的に縁談だっていくらでも来るよな。別に栞がどうこうって訳じゃないけど、栞じゃなきゃいけない理由でもあるのか?」
牧田くんは一度にたくさんの質問を投げかけた。
でもそのどれもが私も聞きたかったことだったので、牧田くんに続いて蓮に目をやると、彼は出していた免許証の生年月日の欄を指で叩いた。
「19…年6月6日生まれ…って、栞と同じか?」
「え?あ、本当だ」
初めて同じ生年月日の人と出会った。
そのことに驚きと興奮が入り混じる。
そんな私に蓮はポツリと一言だけ発した。
「『幼児期健忘』」
「え?」
聞き返せば、蓮は窓の外を、なにかに想いを馳せるように目を細めながら答えてくれた。
「3歳までの記憶というのは一般的にはなくなると言われている。だが例外もある。現に俺は栞のことを憶えていた。今までどんな女にも動かなかった心が動いたのがなによりの証拠だ」
そこまで言うと蓮は私の方を真っ直ぐに見つめて、真剣な顔をして告げた。
「きみと俺は互いの両親公認の婚約者だ」