突然現れた御曹司は婚約者
入社して5年。

地元の信用金庫に就職してからずっと窓口で入出金の管理をしている私、星崎栞(ほしざきしおり)に五月病の文言は当てはまらない。

無言でスマートフォンを返し、牧田くん越しに厨房の方に目を向ける。

するとタイミングよく、白髭をトレードマークとしている御年60歳のマスターが癒しの笑顔とともにお盆にオムライスを乗せて出てきた。


「はい。栞ちゃん。お待たせ」
「ありがとうございます。うーん!いい匂い」


目の前に置かれたデミグラスソースの匂いが空腹の胃を刺激する。


「ほら、スプーン。あとナプキンもここに置いておくな」
「ありがとう」


細やかな気配りは牧田くんに弟妹が多いせい。

5人兄妹の長男はなにかとしっかりしていて面倒見がいい。

それは仕事にも反映されていて、後輩たちからの人望に厚く、加えて水泳で鍛え上げられた筋肉と茶髪のベリーショートの爽やかな髪型が素敵だと女性からの人気も高い。


「いただきます」


イケメン世話好きの牧田くんから受け取ったスプーンでオムライスをすくい、口いっぱいに頬張れば至福の時間が訪れる。


「んー!美味しい!」


無意識のうちにスプーンを持つのと反対の手がほっぺに伸びる。
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