突然現れた御曹司は婚約者

「バカはきみの方だろ。なんだ、これは。『好きなタイプ→祖父みたいな人』って。きみの祖父を誰が知っているというんだ」
「それは…」


その通りだけど、父親の代わりに私を大事に育ててくれて、病で苦しんでいるときも私の心配ばかりしていたおじいちゃんのことをバカ呼ばわりされると頭にくる。


「もう返してくださいっ!」


これ以上、バカにされるのは嫌だと手を伸ばす。

でもヒョイっと簡単に避けられてしまった。


「これは貰っておく。きみのことがよく分かっていい。それにさすが師範を持っているだけのことはあって、字が綺麗だ。見ていて落ち着く」


ここで褒められても嬉しくない。

それにプライベートシートはまだ使う。

ひったくるようにして取り戻し、蓮にはシートを押し返すと、マスターの声が会場内に響いた。


「えー、そろそろ移動の時間です。連絡先を交換する方は速やかに行ってください」

「もう三分経ったのか。早かったな」


たしかに蓮の言う通り、なんだかんだ言ってあっという間だった。

でも、祖父のことに触れたことで今更になって聞きたいことが頭に浮かんだ。


「あの、ひとつだけいいですか?」
「いや、その前に連絡先を教えろ」


スマートフォンを取り出している蓮に首を左右に振って、それよりもどうしても先に聞いておきたいと願い出る。


「両親のことなんですが…」
「あぁ、そんなこと連絡先を知っておけば知りたいときにいつでも聞けるだろ。いつでも答えてやる。だから、ほら。早く連絡先を教えろ」


『そんなこと』?
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