突然現れた御曹司は婚約者
私たちに話していたときの声と打って変わって甘えた声色を出す斎藤さんに鳥肌が立つ。

でもこういう可愛い話し方の女に男は弱いとも聞く。

蓮もそうなのだろうか。

なんとなく気になって様子を伺うように見上げると、蓮は斎藤さんを名前で呼んだ。


「サイトウミカさん、でしたよね?」


驚いた。

名札に書かれた『心華』ってなんて読むんだろうと思っていたところを、蓮はサラリと呼んだのだ。

珍しいから、とも思えるけど、当の斉藤さんは覚えていてくれたことに感激しているらしく、そばにいた私を突き飛ばし、小鼻を膨らませて興奮気味に蓮との距離を縮めた。


「嬉しいですぅ!覚えていてくれて。もしかして私のこと気に掛けて下さっていたんですか?」
「いえ。30人くらいですからね。簡単に覚えられますよ」


シレッと言うと、名札の文字が読めないほど遠くにいるふたりの女性の名前も呼んだ。


「わあ!正解!凄いですね!さすが高学歴の方は違うわぁ」


オーバーに褒める斉藤さんに蓮はカーディガンを脱いでからニコリと微笑んで見せた。

その好意的な表情に斉藤さんが攻め入る。
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