突然現れた御曹司は婚約者
「シャツ一枚でも素敵!ただ、クリーニングはしないといけませんわ。それお預かりするので、連絡先を…」
そう言いながら鞄からスマートフォンを取り出した斎藤さんを蓮は一転して冷たい視線で見つめ、苛立ちを含んだ声を出した。
「見え透いたその感じ。反吐が出る」
「へ…?」
あまりの豹変ぶりになにを言われたのか分からず固まる斉藤さんに蓮は言葉を重ねる。
「このカーディガンはウールだ。ちなみに某ブランドのカーディガンだから値段は10万ほど。万が一縮んでしまった場合、責任取れるのか?」
カーディガンに十万…。
桁外れだけど、そういえばお金持ちだったんだ。
でもそれはプライベートシートを見た斉藤さんも当然知っていることで、玉の輿に乗りたい感丸出しの彼女は蓮の言葉には負けずに言い返した。
「知り合いにシミ抜きのプロがおりますので大丈夫です」
どうだ、と言わんばかりに堂々とした斉藤さんに、蓮はフッと鼻で笑った。
「プロ、ねぇ。だとしても遠慮する。栞のことを貶し、突き飛ばすような女性の知り合いになど俺の服に触れて欲しくないので」
「ていうか栞なら自分で洗濯するって言うわ。このくらい簡単に洗えるもの。カレーのシミを落とせるくらいなんだから、ね?」
カレーのシミって…
蓮に応戦した寧々は牧田くんのシャツに付いた汚れのことを引き合いに出して言っているようだけど、唇を噛み締め、悔しさを露わにしている斎藤さんを前にして頷くことは出来ない。
というよりしたくない。
そんな私の手を蓮がいきなり取り、寧々に声をかけた。
「ねぇ、栞のお友達。俺たち先に帰るからさ、運営の人にうまく話しておいてくれない?」
「いいですよ。そのかわり栞をよろしくお願いしますね」