突然現れた御曹司は婚約者
「え?!ちょ、ちょっと待って。寧々…っていうか、東堂さん!待ってください!手を離して!」
先を行く蓮の腕を振りほどくようにして上下に振る。
「ん?あぁ、ビールでベタベタして気持ち悪かったか?」
それは気にならなかったけど、問題は今こうしてふたりで退出したことだ。
「寧々と私をビールや斎藤さんからかばってくれたのは嬉しかったです。ありがとうございます」
でも元はと言えば連のせいだ。
参加女性の前で私の名前さえ出さなければこんなことにはならなかった。
それに寧々自身が快く送り出してくれたとしても、いざこざを起こした斎藤さんがいる場に寧々ひとりを置いて来てしまったことが気がかりでならない。
「彼女なら大丈夫だよ。なかなか気が強そうだし、どっちにしろああいう場だ。女を敵に回してただろ」
「そうかもしれませんが…」
それでもこのまま帰っていいのか迷い、会場へと続く道を振り返る。
すると真剣な表情をした蓮が私の視界を遮るように目の前に立った。
「戻らせないよ」
静かな声がロビーに響く。
「栞は俺のものだ。これ以上、他の男の目に触れさせてたまるか」
そう言うと、避ける間も無く私の唇に手を伸ばし、寧々が塗ってくれたグロスを指で拭った。
「恋人が欲しいなら俺がなる。俺のことを好きになればいい。だから他の男の前でこんな色っぽい口紅をつけるな。つけたいなら俺の前だけにしろ」
「そんなの…」
蓮に指図される筋合いはない。
そう言いたかったのに、蓮の真剣な眼差しに言葉を失った。