突然現れた御曹司は婚約者

「でもそれ、どうするの?」


寧々の言う通り、問題はそこ。

タグを見て、絵表示で手洗いが可能であることをチェックして、丁寧に洗濯して、縮むことなく洗い上がってはいるけど、返すのも変だし、私が着るには大き過ぎる。


「マスター着ます?」
「いや、俺は彼みたいにスマートじゃないから無理だろうなぁー」


お腹をさすりながら言うマスターは「それより」と話題を戻した。


「あの御曹司と付き合うのかい?」
「それは…でもどうしてそんなに気にかけてくれるんですか?」


ふと思った疑問をマスターに投げ掛ける。

でもマスターは厨房から呼ばれてしまい、席を外してしまった。

その代わりに答えてくれたのは昨日、最後まで参加していた寧々だ。


「昨日の街コン。カップル成立率がすごく高かったの。それもこれも東堂さんのおかげで」
「どういうこと?」


そう聞き返すと寧々は急に低い声を出した。


「『明るく前向きに。失敗を恐れるな。とにかく褒めろ』」
「なにそれ」


蓮の真似だろうか。

あまり似ていないけどモノマネが可笑しくて笑ってしまう。


「ごめん。似てなかったね。でもこれ、東堂さんが歓談前のわずかな時間に参加男性たちにアドバイスした台詞そのものなの」
「なんでそんなアドバイスを…?」


頭抜けた容姿と誰にも負けないステータスを持っているから何様、って思われなかったのかもしれないけど、ライバルに助言するなんて理解出来ない。

それとも私のことを気に入ってくれていた男性はいないと踏んで、余裕でそんなことしたのだろうか。


「逆よ、逆」


ブツブツひとり言を呟いていた私に、寧々が苦笑いで否定した。
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