突然現れた御曹司は婚約者
「直接聞いたわけじゃないから話は誇張されてるのかもしれないけど、東堂さん、全員の前で公言したんですって。『俺は山崎栞ひと筋。だから皆さんは彼女以外の女性を"明るく前向きに、失敗を恐れず、とにかく褒めて"落としてください』って」
「なにそれ」
蓮に羞恥心はないのだろうか。
そんなこと公言するなんて。
「でも私はその潔さを気に入ったわ。それにそのおかげで男性たちはやる気になったのよ。ね?マスター」
オムライスをお盆に乗せて来たマスターに寧々は話を振った。
「そうそう。女性陣の目は東堂氏に釘付けだったから、男性は戦意喪失してたんだよ。でも東堂氏が男性たちを集めて意中の女性がいる、でも振り向いてくれないんだ、とみんなの前で言ったことで連帯感が生まれて、一気に士気が上がったんだ」
あの短時間で30人もの、それも全員初対面の人をまとめ上げるなんて、すごいとしか言いようがない。
「また彼に会うことがあったらお礼言っておいて。いつになく活気ある街コンになりましたって」
そう言われても、会う予定はない。
オムライスを置いて厨房へといそいそと戻って行ってしまったマスターの背中に謝る。
「すみません」
「謝ることないんじゃない?」
寧々の言葉に顔を向けると、オムライスをひと口頬張ってから私を見て言った。
「栞を好きだと初対面の人たちに言うような人よ?会いに来ないはずがないわ」
だとしても連絡先は教えていないし(秘書が調べているかもしれないけど)、彼の会社はここから新幹線で2時間は掛かる。
往復で4時間。
そこまでして会いに来るだろうか。
それに私はあからさまに蓮を拒否した。
「そんなの気にしてないでしょ。他人にアドバイス出来るほど経験豊富な男性よ?フフ。どうやって栞を落とすのか、楽しみね」