突然現れた御曹司は婚約者

寧々は他人事だから『楽しみ』なんて言えるんだ。

会いに来るのかもしれない、と思って生活するのは落ち着かない。

仕事をしていても出入り口が気になるし、ランチを食べていても、買い物していても、通勤していても、周りに蓮の姿がないことをいちいち確認してしまう。

携帯に知らない番号から着信があったときなんて最悪だ。

出るか出ないか、すごく迷う。


「出なきゃいいだろ」


帰り間際、職員用の出口付近で立ち止まり、携帯を眺めて悩んでいるところに帰店した牧田くんが携帯の画面を覗き込み、声を掛けてきた。


「知らない番号なんだろ?知り合いとかならまた掛け直してくるさ」
「そうだね。でも…」


もし蓮だったらと思うからこそ悩んでしまう。

彼に会いたいとか、会わないうちに彼が恋しくなったとかでは断じてない。

ただ自分の両親のことを聞き出せなかったことを後悔している。


「栞?どうした、急に暗い顔して」


心配そうに顔を覗き込んできた牧田くんに、首を左右に振ってから笑顔を向ける。


「ごめん。なんでもない。それより牧田くんはまだ仕事残ってるんだよね?」
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