突然現れた御曹司は婚約者
営業担当の牧田くんは営業先から帰って来てもすぐには帰れない。

お客様から預かった書類の処理、外出時に掛かってきた電話の返電、決算書などを作成しなければならない。


「手伝うよ」


牧田くんの力になれれば、と店内へと続くドアノブに手をかける。

でもその手は牧田くんに触れられて、外されてしまった。


「大丈夫だよ。もう着替えているんだから早く帰れ」
「服なんて閉店しているから大丈夫だよ」


そんなことより毎日残業続きの牧田くんの方が心配だ。

お客様から人気の牧田くんは担当のお客様が多い上に話し上手、聞き上手だからその場で捕まってしまうことが多い。

ここ1週間くらいは私が帰る時間には牧田くんはいなかった。

それに今日は木曜日で疲れも溜まっている頃。


「営業のエースに倒れられたらお客様も職員もみんな困るから。ね、手伝わせて」


強引に言えば牧田くんは呆れたように笑って受け入れてくれた。


「栞には敵わないな。よし。じゃあ手伝ってもらおうかな。その代わり、終わったら飯、ご馳走させてくれ。話したいこともあるし、ちょうどよかった」
「あ、うん」


この前、話が途中になっていたんだった。
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