突然現れた御曹司は婚約者
「すみません。驚いただけです」
「驚いた、か。それなら俺も同じだ」
そう言うと蓮は机の上に並べた料理に目をやった。
「こんな短時間で作れるものだとは知らなかった」
「そんなわけないじゃないですか」
今作ったものはサラダとミョウガのお吸い物だけで、ご飯は冷凍を温めたものだし、漬物は糠から出して切ったもの、切り干し大根の煮物と鰹を煮たものは昨日作った残りものだ。
「お口に合うか分かりませんが」
「いや、美味そうだ。頂いても?」
すでに手に箸を持っているのに確認を取る蓮の律儀さに笑いそうになるけど、答えを待つ蓮にひとつ頷く。
「いただきます…お。このお吸い物、傷口に染みない。それに美味いよ」
鰹の生姜煮も切り干し大根も、サラダも口に合うようで「美味い、美味い」と言いながら食べてくれる。
「気持ちいい食べっぷりですね」
「どれも俺好みの味だから。この漬物は少々傷に響くが、食が進む」
ポリポリと漬物を噛む美味しそうな音が室内に響く。
それだけのことなのにまた胸がジーンと熱くなってきた。
「どうした?」
蓮はそんな私の些細な変化に気付き、手を止めた。
「すみません。誰かと一緒にここで食事するの久しぶりで」
普段はなんてことなく過ごしていることでもこうして自分以外の誰かが立てる生活音に祖父母と共に暮らしていた日々を思い出してしまう。
「寂しくなったらいつでも連絡してくればいい。だから連絡先教えろ」