突然現れた御曹司は婚約者
「悪いな。片付けも出来ずに」
「いえ。それより傷口、大事してください」
カーディガンの入った紙袋を手渡しながら片方の手で頬を指す。
「ありがとう。傷は栞の手料理食べたら良くなったよ」
そんなことないだろうに、そう言って微笑まれたら嫌な気がしない。
紙袋も丁寧に受け取ってくれた。
「このお礼は必ずするよ。だから…」
携帯の番号か。
しつこく聞こうとすることに気付いたら、もうなんかおかしくて、聞かれる前に番号をサラサラっと口頭で伝えることにした。
「あ、おい。ちょっと待て。さすがの俺もいきなり言われたら記憶出来ない。もう一度言え。いや、今、出すから栞が直接入力してくれ」
急いでポケットからスマートフォンを取り出す蓮の姿に笑いがこみ上げてきた。
スマートフォンを受け取り、番号を入力する手が震える。
「笑ってくれるのはいいが、運転手を待たせてるんだ。早くしろ」
「あ、そうでした。すみません。はい。これが私の番号です」
手渡したスマートフォンを蓮は確認し、ワンコール鳴らしたようだ。
「ちゃんと登録しておけよ。じゃあ、またな」
そう言うと、満足そうな笑みを浮かべて家から出て行った。