突然現れた御曹司は婚約者
「ただいま、ワンコ。栞連れて来たぞ」
『ただいま』?
今、『ただいま』って言った?
蓮の言葉に混乱する私の元へメディアムボブカットの綺麗な年配女性が駆け寄って来た。
「栞ちゃん?!栞ちゃんなのね?!会いたかったわー!」
いきなり抱き締められて、この状況にさらに混乱する。
それを奥からやって来た白髪が少し寂しい男性が窘めてくれた。
「こら、栞ちゃんが困ってるじゃないか。離して、居間で話をしよう」
「あ、そうね。さ、栞ちゃん。どうぞ」
体は離されたけど、自然に握られた手。
その手のぬくもりはどこか懐かしくてしっくり来るものだった。
ワンコと呼ばれていたゴールデンレトリバーを連れている蓮はふたりが両親だと言う。
「覚えて…ないわよね、さすがに」
ソファーの隣に腰掛けた蓮のお母さんは私の手を両手で握りながら、顔を覗き込んで聞いてきた。
でももちろん、覚えてない。
「すみません」
「ううん。謝ることないわ。でもやっぱり由乃さんに似てる」