突然現れた御曹司は婚約者
「やっぱりね。でもそれならのんびり構えて待ってたらダメよ。栞は可愛いから、そのうちに積極性のある誰かに取られちゃうわよ」
「んなこと分かってるよ」
少しムッとした牧田くんに寧々は驚きつつも満足そうに頷いた。
ただ、その一連の流れに私だけが置き去り。
「何の話をしているの?」
どちらかが教えてくれないかと視線を交互に動かしてみる。
でも寧々は微笑んで見せるだけで教えてくれないし、牧田くんは牧田くんで窓の外を見て考え込んでしまっている。
「うーん。ま、いっか」
私だって俳句のこと、詳しく話さなかった。
お互い様だと割り切り、オムライスに手を伸ばす。
しかし、その手は牧田くんに止められてしまった。
「ちょっと待て。『ま、いっか』はないだろ」
「それならなんの話をしていたか教えてよ」
そう聞き返すと、牧田くんはバツが悪そうに顔を歪めた。
「…こんなタイミングで言うつもりはなかったんだけどな」
それでも話す気になってくれたようなので、スプーンを置き、体を牧田くんの方に向ける。
すると突然、寧々が立ち上がった。
「私、先に戻るわ。ごゆっくり」
そう言ってランチ代を置いてさっさと出て行ってしまった寧々を見て、なんのことだか、呆気にとられる。