突然現れた御曹司は婚約者
遊園地からの帰り道。

バスの座席は蓮の両親の後ろに私の両親、そして通路を挟んだ真横に私と蓮という配置だった。

そこで起きた横転事故。

車体が傾いたと同時に転がり込んで来た私と蓮を、私のことはお父さんが、蓮のことはお母さんが庇うようにして守ってくれたらしい。


「知らなかったです」
「事故のことは思い出さない方がいいと思って栞ちゃんのお祖父様もお祖母様も話さなかったんだろう。現に私たちも蓮には話してなかった。だが…」


あるとき突然蓮が『しおりちゃんはどこ?』と言い出したらしい。


「夢によく出てきていたらしいんだ」


ひとは苦しさや悲しさといった経験は脳に埋め込まれてしまう。

幼少期の記憶が蓮の頭の中に残ったのはそれが理由のようだ。


「ただそのときも蓮には教えなかった。栞ちゃんは新しい生活を始めていて、お祖父様、お祖母様に大事に育てられていたから」
「それが今になってなんで…」


そこが知りたいと聞くとお父さんに代わってお母さんが答えてくれた。


「あのとき、事故で蓮を庇いながら話していた由乃さんと蓮の言葉も忘れられなかったの」


『栞の花嫁衣装、蓮くんがおばさんの代わりに見てね』
『栞ちゃんは誰にもあげないよ。ぼくのお嫁さんにする』


「だからもう何年も前から栞ちゃんのところへ縁談の話を持ちかけてたの。栞ちゃんが勤める信用金庫にも関わったりしてね。でもお祖父様、お祖母様に反対されてたのよ」


あれだけ頑なに両親のことを話さなかったふたりだ。

蓮の親子に合わせるつもりはなかっただろう。
ただ、どうしても解せないことがある。
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