突然現れた御曹司は婚約者
「東堂さんは…蓮さんはそれで良かったんですか?」
今までの話を聞く限り、蓮の両親が進めているだけで、そこに蓮の意思はない。
まさか私のお母さんとの会話を記憶していたはずはないだろう。
「蓮には栞ちゃんがオーケーをくれたら話そうと思ってたの。まぁ、そのときに真剣にお付き合いしてる子がいたらどうしようとは思ったけど、蓮はモテるように見えて恋愛には慎重なタイプだったから大丈夫じゃないかな、って思って。ね?」
身を乗り出して同意を求めるお母さんに、蓮はそっぽ向いて呟いた。
「本気で好きだと思える女がいなかっただけだよ」
「でも蓮は見つけたのよね。栞ちゃんのこと」
追求の手を休めないお母さんに蓮は「ハッ」と鼻で笑った。
「栞に出会うように仕向けたのは親父たちだろ」
どういうこと?
そう聞きたかったけど、蓮に続いたお父さんの笑い声に聞くタイミングを逸してしまった。
「ハハ。やはりバレていたよ、母さん」
「それでもいいわ。こうして蓮は栞ちゃんを連れて来てくれたんだもの」
そう言うとお母さんはアルバムに触れていた手で私の手をまたギュッと握り締めた。
「栞ちゃん。結婚相手を決めるのは栞ちゃん自身だけど、私たちは栞ちゃんが蓮のお嫁さんになってくれるたら嬉しいって心から思ってるの」
蓮のお母さんの真剣な眼差しが胸を打つ。
だからこそ曖昧に返事は出来ない。
何も答えずにいると、蓮が私の腕を取り、立ち上がらせた。
「栞を口説くのは俺の役目。ということで俺たちはこれで帰るから」