突然現れた御曹司は婚約者


「また来てね」


蓮のお母さんの声が耳に残っている。

でも車に乗った途端、目の前に一枚の紙が差し出され、それに目を通していたら驚きのあまり声の記憶は飛んだ。


「なんですか、これ?!デートのタイムスケジュール?」


大雑把だけどスケジュールが書かれている。

このあとはランチ、その1時間半後は映画で、同モールでウィンドーショッピングして、ディナーのあとは…


「キス?!」


なにこれ。

こんなこと書いていることも、予定を立てていることもおかしい。

ランチのお店へと急いで車を走らせている蓮に、運転中だけど、紙を押し戻す。


「これ、おかしいです!予定してするものじゃないでしょう?」
「恋愛初心者の栞にはその方が心の準備ができていいと思ったんだけど、違った?」


たしかに恋愛経験はない。

でも、だからって予定されてたらそれが気になって、個室で、しかも普段食べられないフカヒレや北京ダックなどが目の前のターンテーブルに並んでいても、箸が進まない。


「ご両親の話聞いて食欲なくなったか?」
「え?あ、いえ。そういうわけではありません」


両親の話も、蓮のお母さんの言葉も心に響くものだったけど、それで食欲が落ちるようなことはない。

母がどれだけステキな女性だったのか聞けて嬉しいくらいだ。


「ただ…」


箸を置き、俯く私を見て、蓮も同じように箸を置き、そして心配そうに覗き込んで来た。


「食べやすいお粥でも頼もうか?」
「いえ、大丈夫です。それより…」


顔を上げ、気になっていたことを思い切って聞くことにした。


「私に出会うよう仕向けたってなんですか?」
「ん?あぁ」


そう言うと蓮は口元に笑みを浮かべて、椅子の背にもたれてから教えてくれた。
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