突然現れた御曹司は婚約者
それは車内ということなのだろうか。

ショッピングモールから出た私たちは駐車場に戻り、蓮は車を走らせている。


「ドライブですか?」


これなら人目に晒されることはないから少し気が休まる。

でも蓮は違うと言う。


「それならどこへ向かっているんですか?」
「スケジュールとは違うけど、栞と一緒に行きたかった場所だよ。あ、でもその前に1箇所だけ寄っていいか?」


そう言って車を止めたのはお花屋さん。


「栞は何の花が好き?」
「私は…」


華道をおばあちゃんに習っていたから花には詳しい方だけど、特にこれが好きという花はない。

季節に応じた花ならどれでも趣があって美しいから。

今の季節なら…


「あ」


キョロキョロと店先に飾られた花を見回した瞬間、蓮がここに来た理由とこれから向かう場所がすぐに分かった。


「今日、母の日…」
「そ。まぁ、これだけカーネーションがあれば分かるよな。あ、すみません。カーネーションを花束でください」


店員さんに声を掛けた蓮はそのまま店員さんと一緒に店の中へと入って行った。

その後ろ姿に少しだけ感動してしまう。

もう何年も私は墓前にカーネーションを添えることはしなかったから。


「いらっしゃいませ。カーネーションをお探しですか?」


花を前に立ち竦む私に店員さんが声をかけてくれた。

ちょうどいい。


「白とピンクと赤のカーネーションをそれぞれ、花束にしていただけますか?」
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