突然現れた御曹司は婚約者
「寧々は知ってる話しなの?」
見えなくなった寧々の背中から牧田くんに視線を戻し、気になったことを先に聞く。
「話したつもりはないんだけど、あいつは勘がいいから」
寧々に気付けて私に気付けないことって…
「あ、もしかして恋愛の話?」
その分野は経験豊富な寧々には敵わない。
「ついに彼女が出来たとか?」
おめでたい話題かと思って、興奮気味に前のめりになる。
でも牧田くんは切ない笑みを浮かべたので、早とちりだったと姿勢を元の位置に戻す。
「じゃあ何の話?仕事の悩み?」
「いや。恋愛系と言えば恋愛系だな」
それなら私より寧々に相談すればいいのに。
26歳にして恋愛経験ゼロの私が寧々以上のアドバイスなんて出来ない。
それは牧田くんも分かっているはずだけど。
「栞?」
「あ、ごめん」
考えたって仕方ない。
牧田くんは私に相談を持ちかけてくれようとしているのだから、しっかり聞かないと。
もう一度、姿勢を正してから牧田くんに『どうぞ』と手のひらを差し出す。
「あのな、栞。俺な…」
牧田くんの真剣な表情と重い一言一言に、私の体にも力が入る。
「俺、栞のこと…」
「うん。え、私?」
なんで私?
「あぁ、栞のことをな、ずっと…」
「ずっと?」
わ。
牧田くんの顔、真っ赤だ。
緊張感がこっちにまで伝わってくる。
なんかドキドキしてきた。
「ずっと、なに?」
言葉に詰まる牧田くんにキッカケを与える。
すると意を決したように目がキッと強く見開かれて両方の肩が掴まれた。
「俺、栞のことずっと、ずっと、す…っんぐ!?」
「はい。そこまで」