突然現れた御曹司は婚約者
私が買った花束は蓮が買って来た花とは比べものにならないほど小さい。
というより車の後部座席いっぱいの花を買う人を私は初めて見た。
それでも各々の想いは同じ。
「ピンクのカーネーションは感謝を込めておばあちゃんに。白のカーネーションはお母さんに」
蓮が供えた真っ赤なカーネーションの横に控えめに供え、ふたりで手を合わせる。
「由乃さん。俺を助けてくれてありがとうございました。それと栞を産んでくれてありがとうございます。必ず幸せにします」
「まだ私の気持ちは全然追いついてませんけど」
蓮の言葉に目を閉じたまま返答すると、頬が軽く抓られた。
「そこはウソでも『蓮とめぐり合わせてくれてありがとう。幸せになるね』って言えよ」
「ウソはダメです。でも…」
立ち上がり、蓮に手を伸ばす。
「ありがとうございます。ここに一緒に来てくれて。色々と教えてくれて。私、少しだけあなたとのこと、前向きに考えようって思いました」
「本当か?聞きました?由乃さん!聞きましたよね?栞が俺とのこと前向きに考えてくれるそうですよ!」
あまりに喜ぶものだから、クスリと笑ってしまう。
そんな私の手を蓮は取り、しっかりと手を繋いだ。
「よーし!俺、本気出すから。覚悟してろ」
「"明るく前向きに、失敗を恐れず、とにかく褒めて"落とすんですか?」
街コンで蓮がしたアドバイスをそのまま言うと、彼は驚いたように目を見開いた。
「寧々から聞きました。それと、マスターがお礼を言ってました。カップル成立率が高かったのは東堂さんのおかげだって」
伝えられて良かった。
見れば蓮は満足そうに空を見上げて微笑んでいた。
「俺のアドバイスが効いたならなによりだな。それにアドバイスが間違ってないことが証明されたってわけだ」
そう言うと蓮は私の耳元に口を寄せた。
「栞は今日も可愛いよ。肌はきめ細かくて綺麗だし、髪はサラサラで美しい。スタイルもいいし、ナチュラルなメイクは俺好み。パーフェクトだ」
「いやいや、そんなに褒めると嘘っぽく聞こえますよ」
なんて照れ隠し。
甘い囁きに耳は熱いし、鼓動は加速しっぱなしだ。
でもそれを気付かれたくなくて、手を離し、急いで車の方へと向かい、カギが開いたと同時に車内に乗り込む。
「あれ?赤いカーネーションが置いてある。忘れたのか?」
あとから車内に乗り込んだ蓮は私が買って置きっ放しにしていたカーネーションを手に取った。