突然現れた御曹司は婚約者

「好きだ」


唇が離れたと同時に、蓮が囁いた。

その甘い声と至近距離で見つめ合うことに全身が熱くなる。

今いる場所が場所だけに、蓮はそれ以上のことはしてこなかったけど、私の熱はなかなか冷めない。

運転している蓮を意識しまくってしまう。


「そんなに警戒するなって。大丈夫だ。今日はもうなにもしないから」
「本当に?」


様子を伺うようにして隣を見れば蓮は横目で私を見て、妖しく微笑みながら言った。


「栞がして欲しいって言うならいくらでもしてあげるけど」
「け、結構です!」
「ハハ。残念。でもそれならしないよ。言っただろ?俺は栞が嫌がることはしないって。でも望めばなんでも叶えてやる」


そんなに甘やかさないで欲しい。

もう甘い言葉でお腹がいっぱい。

スケジュールに書かれていたディナーの時間には間に合いそうだったけど、それは断ることにした。


「せっかくのお料理を残してもいけませんから」
「そうだな。昼、たくさん食べたし、映画館でもポップコーン食べてたしな。でも少しでも家で食べるんだぞ。栞は痩せすぎだってお袋も言ってただろ?」


そうだった。

なんだか濃い1日で蓮のご両親に会ったのは随分前のような気がする。


「ご両親にもお礼を伝えておいてください」


シートベルトを外しながら蓮に言う。


「貴重なお時間を頂いてありがとうございます。それからお話聞けて良かったです、って」
「分かった。じゃあ…またな」


『またな』と言ったときの蓮が私の様子を伺うような感じだった。

『もう一度好きだと言わせてみせる』とか『本気出すから覚悟してろ』なんて言うくせに、変なところで弱気な蓮が少しだけ可愛く見えた。

だから…


「…っ!」


驚いたように目を見開き、頬を押さえた蓮から逃げるようにして車から降りて、自宅へと入る。
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