突然現れた御曹司は婚約者
え?

なに?!

突然、目の前で牧田くんの口が塞がれた。


「なにすんだよっ!」


怒声とともに口元に添えられた手を退けた牧田くんは、勢いよく立ち上がり、七分袖の黒スーツに無地のインナーを着た、茶髪のそれはそれは整った顔をした見目麗しい男性を睨み上げた。


「誰だ、お前っ!突然現れてなにしてくれたんだ!」


威勢のある声が店内に響く。

にも関わらず男性はまったく動じず、微笑を浮かべて牧田くんを見下ろし、静かに口を開いた。


「言葉遣いがなっていないな。無粋な真似をしたことは謝るが、社会人たるもの、そこは直した方がいい」


男性は淡々とした口調で言うと、牧田くんに触れた手をこれ見よがしにウエットティッシュで拭いた。

それが牧田くんの余計に怒りを煽る。


「なんなんだよ、おまえっ!」


今にも拳が出そうなほど、牧田くんの手が怒りで小刻みに震えている。

このままではマズい。

店内のお客様もこちらを見始めていることだし、とりあえず場を収めようと牧田くんの袖口を引っ張り、腰掛けるよう促す。


「あのっ、あなたもそちらに腰掛けてもらえませんか?無駄に注目を集めるのはあなたにとっても有益ではないと思いますので」
「有益ではない、か。なかなか面白い言い方するな。よし、いいだろう。座ろう。ほら、そこのお前も。早く座れ」

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