ホワイトデー・カデンツァ
「3月14日の3時14分に指輪はめてやった。永遠に途切れない数字の円周率プロポーズだ。ロマンチックだろ?」
そこは異論を挟めないほど、ロマンチックです。
だけど!
「いや、寝てる間にプロポーズとか意味わかんないですから!」
「うん、って返事してたぞ」
「……!」
「何か不満でも?」
「不満っていうか……、不満なわけではないのですけれども……、早すぎて、私でいいのかなって……。それに、私達まだケンカして仲直りの経験もないし、お互いの家のことだってよく知らないし、」
漆原建は、フン、と鼻で笑った。
「一般論だな」
あら、今からケンカできそうな雰囲気?
「俺は労働時間は少ないが、暇ではない。準備や移動にえらく時間がかかる仕事だ。恋愛ごっこをしてる暇はない。ゆえに結婚という制度を採用する」
彼は世界を飛び回る超一流のヴァイオリニストだ。
付き合って1ヶ月、会えたのは2回、こうして一緒に朝を迎えるのも2回目。
……それにしても、何、この上からプロポーズ?
「仕方ない。今夜のベトコンで自作のカデンツァ弾いてやるから、それから答える?」
……違う意味で息をのんだ。
今夜、国内一流オーケストラのコンサートで、漆原建がソリストとしてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾く。
(ちなみに私は数ヶ月前にチケットを自腹で購入していた。その時点でもう既に彼のことを好きになっていましたからね!)
ベートーヴェンはこの協奏曲にカデンツァを書いていない。ソリストは、過去の巨匠が残したカデンツァを弾くのが一般的。自作のカデンツァを披露するというのは、保守的なクラシック業界においては結構挑戦的なことなのだ。
それにしても、1ヶ月前のバレンタインデーといい、今回といい、自分の演奏を聴かせたい欲求がここまで強いとは、さすがプロ。
皮肉ではなく、尊敬の念をこめて。
そこは異論を挟めないほど、ロマンチックです。
だけど!
「いや、寝てる間にプロポーズとか意味わかんないですから!」
「うん、って返事してたぞ」
「……!」
「何か不満でも?」
「不満っていうか……、不満なわけではないのですけれども……、早すぎて、私でいいのかなって……。それに、私達まだケンカして仲直りの経験もないし、お互いの家のことだってよく知らないし、」
漆原建は、フン、と鼻で笑った。
「一般論だな」
あら、今からケンカできそうな雰囲気?
「俺は労働時間は少ないが、暇ではない。準備や移動にえらく時間がかかる仕事だ。恋愛ごっこをしてる暇はない。ゆえに結婚という制度を採用する」
彼は世界を飛び回る超一流のヴァイオリニストだ。
付き合って1ヶ月、会えたのは2回、こうして一緒に朝を迎えるのも2回目。
……それにしても、何、この上からプロポーズ?
「仕方ない。今夜のベトコンで自作のカデンツァ弾いてやるから、それから答える?」
……違う意味で息をのんだ。
今夜、国内一流オーケストラのコンサートで、漆原建がソリストとしてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾く。
(ちなみに私は数ヶ月前にチケットを自腹で購入していた。その時点でもう既に彼のことを好きになっていましたからね!)
ベートーヴェンはこの協奏曲にカデンツァを書いていない。ソリストは、過去の巨匠が残したカデンツァを弾くのが一般的。自作のカデンツァを披露するというのは、保守的なクラシック業界においては結構挑戦的なことなのだ。
それにしても、1ヶ月前のバレンタインデーといい、今回といい、自分の演奏を聴かせたい欲求がここまで強いとは、さすがプロ。
皮肉ではなく、尊敬の念をこめて。